中原中也
曉は、紫の色、 / 明け初めて / わが友等みな、 / 我を去るや…… / 否よ否、 / 曉は、紫の色に、 / 明け初めてわが友等みな、 / 一堂に、會するべしな。 / 弱き身の、 / 強がりや怯え、おぞまし、 / 弱き身の、弱き心の / 強がりは、猶おぞましけれど / 恕せかし 弱き身の / さるにても、心なよらか / 弱き身の、心なよらか / 折るることなし。
ゴムマリか、なさけない / ゴムマリか、なさけない / ゴムマリは、キヤラメル食べて / ゴムマリは、ギツタギダギダ
ゴムマリは、ころべどころべど / ゴムマリはゴムのマリなり / ゴムマリを待つは不運か / ゴムマリは、涙流すか
ゴムマリは、ころんでいつて、 / ゴムマリは、天壽に至る / ゴムマリは、天壽に至り / ゴムマリは天壽のマリよ
強がつた心といふものが / それがゴムマリみたいなものだといふことは分る / ゴムマリといふものは / 幼稚園ではある
ゴムマリといふものが、 / 幼稚園であるとはいへ / 幼稚園の中にも亦 / 色んな童兒があらう
金色の、虹の話や / 蒼穹を歌ふ童兒、 / 金色の虹の話や、 / 蒼穹を、語る童兒、
又、鼻ただれ、眼はトラホーム、 / 涙する、童兒もあらう
いづれみな、人の姿ぞ / いづれみな、人の心の、折々の姿であるぞ
僕が、妥協的だと思つては不可ない / 僕は、妥協する、わけではない / 僕には、たくらみがないばかりだ / 僕の心持は、どう變りやうもありはしない
僕の心持が、ときどきとばつちることはあつたが / それは僕の友が、少々つれなかつたからでもあつた。
もちろん僕が、頑なであつたには相違ないが、 / それにしても、君等、少々冷淡であつた。
風の中から僕が拔け出て來た時
/
一寸ばかり、
でもまあいい、もうすんだこと / これからは 僕も亦猶 / ヒステリックになるまいゆゑに / 君等またはやぎめで顏見合せて嬉しがらずに呉れ。
(一九三二・一二・二七)
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