中原中也
抑制と、突發の間をいつたりきたり、 / 彼は人にも自分にも甘えてゐるのです。
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彼の鼻は、どちらに向いてゐるのか分らない、 / 眞面目のやうで、嘲つてるやうで。
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彼は幼時より變人とされました、 / 彼が馬鹿だと見られさへしたら天才でしたらうに。
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打ち返した綿のやうになごやかな男、 / ミレーの繪をみて、涎を垂らしてゐました。
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ソーダ硝子のやうな眼と唇とを持つ男、 / 彼が考へる時、空をみました。 / 訪ねてゆくと、よくベンチに腰掛けてゐました。 / 落葉が來ると、 / 足を引込めました。 / 彼は發狂し、モットオを熱辯し、 / 死んでゆきました。
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