かなしみ
白き敷布のかなしさよ夏の朝明け、なほ仄暗い一室に、時計の音のしじにする。
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目覺めたは僕の心の悲しみか、世に慾呆けといふけれど、夢もなく手仕事もなく、何事もなくたゞ沈湎の一色に打續く僕の心は、悲しみ呆けといふべきもの。
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人笑ひ、人は囁き、人色々に言ふけれど、靑い卵か僕の心、何かかはらうすべもなく、朝空よ!汝は知る僕の眼の一瞥を。フリュートよ、汝は知る、僕の心の悲しみを。
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朝の巷や物音は、人の言葉は、眞白き時計の文字板に、いたづらにわけの分らぬ條を引く。
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半ば困亂しながらに、瞶る私の聽官よ、沁みるごと物を覺えて、人竝に物え覺えぬ不安さよ、悲しみばかりの藍の色、ほそぼそとながながと朝の野邊空の涯まで、うちつづくこの悲しみの、なつかしくはては不安に、幼な兒ばかりいとほしくて、はやいかな生計の力もあらず此の朝け、祈る祈りは朝空よ、野邊の草露、汝等呼ぶ淡き聲のみ、咽喉もとにかそかに消ゆる。