中原中也
何時かまた郵便屋は來るでせう。 / 街の蔭つた、秋の日でせう、
あなたはその手紙を讀むでせう / 肩掛をかけて、讀むでせう
窓の外を通る未亡人達は、 / あなたに不思議に見えるでせう。
その女達に比べれば、 / あなた自身はよつぽど幸福に思へるでせう
そして喜んで、あなたはあなたの惱みを惱むでせう / 人々はそのあなたを、すがすがしくは思ふでせう
けれどそれにしても、あなたの傍の卓子の上にある / 手套はその時、どんなに蒼ざめてゐるでせう
乳母車を輓け、 / 紙製の風車を附けろ、 / 郊外に出ろ、 / 墓參りをしろ。
ブルターニュの町で、 / 秋のとある日、 / 窓硝子はみんな割れた。
石疊は、乙女の目の底に / 忘れた過去を偲んでゐた、 / ブルターニュの町に辭書はなかつた。
市場通ひの手籠が唄ふ
/
瓜は腐りが早からう、 / そんなものならわしや嫌ひ、 / 齒槽膿漏さながらに / 女はみんな瓜だなも。
雨降れ、 / 瓜の肌には冷たかろ。 / 空が曇つて町曇り、 / 歴史が逆轉はじめるだろ。
オルガンのやうになれよかし / 愛嬌なんかはもうたくさん / 胸搔き亂さず生きよかし / 雨降れ、雨降れ、しめやかに。
昨日は雨でしたが今日は晴れました。 / 女はばかに氣取つてゐました。 / 昨日悄氣たの取返しに。
罪のないことです、 / さも強さうに、産業館に這入つてゆきます、 / 要らない品物一つ買ふために。
僕は輪廻ししようと思つたのだが、 / 輪は僕が突き出す前に驅け出しました。 / 好いお天氣の朝でした。
http://www.junkwork.net/txt