中原中也
ナイヤガラの上には、月が出て、
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雲も だいぶん集つてゐた。
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僕は、發電所の中に飛び込んでいつて、 / 番人に、わけの分らぬことを訊ね出した。 / 番人は僕の樣子をみて驚いて、 / お靜かに、お靜かに、といつた。
ナイヤガラの上には、月が出て、 / 僕は中世の戀愛を夢みてゐた。 / 僕は發動機船に乘つて、 / 奈落の果まで行くことを願つてゐた。
糸が切れた、となさけない聲。 / それは僕の釣友達であつた。 / わたしのをお使ひさんせー、遠慮いりいせん、 / それは船頭の息子だつた。
瀧の音は、何時まで響き、 / 月の光は、碎けてゐた。
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