中原中也
夜の空は、廣大であつた。 / その下に一軒の酒場があつた。
空では星が閃めいてゐた。 / 酒場では女が、馬鹿笑ひしてゐた。
夜風は無情な、大浪のやうであつた。 / 酒場の明りは、外に洩れてゐた。
私は酒場に、這入つて行った。 / おそらく私は、馬鹿面さげてゐた。
だんだん酒は、まはつていつた。 / けれども私は、醉ひきれなかつた。
私は私の愚劣を思つた。 / けれどもどうさへ、仕方はなかつた。
夜空は大きく、星もあつた。 / 夜風は無情な、波浪に似てゐた。
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