中原中也
むかし、おまへは黑猫だつた。 / いまやおまへは三毛猫だ。 / 幾歳月の漂浪のために。 / そして、わたしは、三毛猫の主(あるじ)だ。
わたしは、それを嘆きはしまい、 / わたしはそれを、怨みはしまい。 / われら二人をめぐる不運は / われらを弱めることによつて甦つた。
さは、さりながら、おまへ、昔日(むかし)の黑猫よ、 / わたしはおまへの、單一を惜む! / わたしはおまへの、單一な地盤の上にて
生長すべかりしことを懷ふ! / その季節(とき)やいま失はれて、 / おまへは患へ、わたしはおまへの患へを患へる。
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