中原中也
・・・・・・・・・・ / 在りし日よ、幼なかりし日よ! / 春の日は、苜蓿(うまごやし)踏み / 靑空を、追ひてゆきしにあらざるか?
いまはまた、その日その草の、 / 何方(いづち)の里を急げるか、何方の里にそよげるか? / すずやかの、音ならぬ音は呟き / 電線は、心とともに空にゆきしにあらざるか?
町々は、あやに翳りて、 / 厨房は、整ひたりしにあらざるか? / 過ぎし日は、あやにかしこく、 / その心、疑惧(うたがひ)のごとし。
さはれ人けふもみるがごとくに、 / 子等の背はまろく / 子等の足ははやし。 / ……人けふも、けふも見るごとくに。
(一九二八・一・二五)
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