中原中也
暗い空に鐵橋が架かつて、
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男や女がその上を通る。
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その一人々々が夫々の
吊られてゐる赤や綠の薄汚いラムプは、 / 空いつぱいの鈍い風があたる。 / それは心もなげに燈つてゐるのだが、 / 燃え盡した愛情のやうに美くしい。
泣きかゝる幼兒を抱いた母親の胸は、 / 搔亂されてはゐるのだが、 / 「この子は自分が育てる子だ」とは知つてゐるやうに、
その胸やその知つてゐることや、夏の夜の人通りに似て、 / はるか遙かの暗い空の中、星の運行そのまゝなのだが、 / それが私の憎しみやまた愛情にかゝはるのだ……。
私の心は腐つた薔薇のやうで、
/
夏の夜の靄では淋しがつてすすりなく。
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若い士官の
それにもまして好ましいのは、
/
オルガンのある煉瓦の
その時廣場は汐ぎ亙つてゐるし、 / お濠の水はさゞ波たてゝる。 / どんな馬鹿者だつてこの時は殉敎者の顔付をしてゐる。
私の心はまづ人間の生活のことについて燃えるのだが、 / そして私自身の仕事については一生懸命錬磨するのだが、 / 結局私は薔薇色の蜘蛛だ、夏の夕方は紫に息づいてゐる。
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