中原中也
美しい扉の親しみに / 私が室(へや)で遊んでゐると、 / 私にかまはず實つてゐた / 新しい桃があつたのだ……
街の中から見える丘、 / 丘に建つてたオベリスク、 / 春には私に桂水くれた / 丘に建つてたオベリスク……
蜆(しじみ)や鰯を商ふ路次の / びしよ濡れの土が歌つてゐる時、 / かの女は何處かで笑つてゐたのだ……
港の春の朝の空で / 私がかの女の肩を搖つたら、 / 眞鍮の盥のやうであつたのだ……
以來私は木綿の夜曲? / はでな處には行きたかない……
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