中原中也
面白がらせと怠惰のために、こんなになつたのでございます。 / 今では何にも分りません。 / 曇つた寒い日の葉繁みでございます。 / 眼瞼に蜘蛛がいとを張ります。
(あゝ何を匿さうなにを匿さう。)
しかし何の姦計があつてからのことではないのでございます。 / 面白がらせをしてゐるよりほか、なかつたのでございます。 / 私は何にも分らないのでございます。 / 頭が滅茶苦茶になつたのでございます。
それなのに人は私に向つて斷行的でございます。 / 昔は抵抗するに明知を持つてゐましたが、 / 明知で抵抗するのには手間を要しますので、 / 遂々人に潰されたとも考へられるのでございます。
私の魂はたゞ優しさを求めてゐた。 / それをさうと氣付いてはゐなかつた。 / 私は面白がらせをしてゐたのだ…… / みんなが俺を慰んでやれといふ顏をしたのが思ひ出される。
明知が群集の時間の中に丁度よく浮んで流れるのには / 二つの方法がある。 / 一は大抵の奴が實施してゐるディレッタンティズム、 / 一は良心が自ら煉獄を通過すること。
なにものの前にも良心は
歴史は時間を空間よりも少しづつ勝たせつゝある? / おゝ、念力よ!現れよ。
貴樣達は決して出納掛以上ではない! / 貴樣達は善いものも美しいものも求めてはをらぬのだ! / 貴樣達は糊附け着物だ、 / 貴樣達は自分の目的を知つてはをらぬのだ!
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