中原中也
私を愛する七十過ぎのお婆さんが、 / 暗い部屋で、坐つて私を迎へた。 / 外では雀が樋に音をさせて、 / 冷たい白い冬の日だつた。
ほのかな下萌の色をした、 / 風も少しは吹いてゐるのだつた。 / 私は自信のないことだつた、 / 紐を結ぶやうな手付をしてゐた。
とぎれとぎれの口笛が聞こえるのだつた、 / 下萌の色の風が吹いて。
あゝ自信のないことだつた、 / 紙魚(たこ)が一つ、颺つてゐるのだつた。
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