未刊詩篇

中原中也

〔一九二三年-一九二八年〕

處女詩集序

かつて私は一切の「立脚點」だつた。 / かつて私は一切の解釋だつた。

私は不思議な共通接線に額して、 / 倫理の最後の點をみた。

(あゝ、それらの美しい論法の一つ一つを、 / いかにいまこゝに想起したいことか!)

*

その日私はお道化る子供だつた。 / 卑小な希望達の仲間となり馬鹿笑ひをつゞけてゐた。

(いかにその日の私の見窄しかつたことか! / いかにその日の私の神聖だつたことか!)

*

私は完き從順の中に / わづかに呼吸を見出だしてゐた。

私は羅馬婦人ローマをんなの笑顔や夕立跡の雲の上を、 / がしらで歩いてゐたやうなものだ。

*

これらの忘恩な生活の罰か? はたしてさうか? / 私は今日、統覺作用の一摧片ひとかけらをも持たぬ。

さうだ、私は十一月の曇り日の墓地を歩いてゐた、 / 柊の葉をみながら私は歩いてゐた。

その時私は何か?たしかに失つた。

*

今では私は / 生命の動力學にしかすぎない―― / 自恃をもつて私は、むづかる特權を感じます。

かくて私には歌がのこつた。 / たつた一つ、歌といふのがのこつた。

*

私の歌を聽いてくれ。

目次

未刊詩篇

  1. 〔一九二〇年-一九二三年〕
  2. 〔一九二三年-一九二八年〕
  3. 〔一九二八年-一九二九年〕
  4. 〔一九三〇年-一九三二年〕
  5. 〔一九三三年-一九三四年〕
  6. 〔一九三五年-一九三七年〕

〔一九二三年-一九二八年〕

  1. タバコとマントの戀
  2. ダダ音樂の歌詞
  3. 春の日の怒
  4. 戀の後悔
  5. 不可入性
  6. (戀の世界で人間は)
  7. (天才が一度戀をすると)
  8. (風船玉の衝突)
  9. (何故親の消息がないんだ)
  10. 自 滅
  11. (あなたが生れたその日に)
  12. 倦怠に握られた男
  13. 倦怠者の持つ意志
  14. 初 戀
  15. 想像力の悲歌
  16. 古代土器の印象
  17. 初 夏
  18. 情 慾
  19. 迷つてゐます
  20. 幼き戀の囘顧
  21. (題を附けるのが無理です)
  22. (何と物酷いのです)
  23. (テンピにかけて)
  24. (假定はないぞよ)
  25. (酒は誰でも醉はす)
  26. (名詞の扱ひに)
  27. (酒)
  28. (最も純粹に意地惡い奴)
  29. (バルザック)
  30. (ダツク ドツク ダクン)
  31. (古る摺れた)
  32. 一 度
  33. (ツツケンドンに)
  34. (女)
  35. (頁 頁 頁)
  36. (ダダイストが大砲だのに)
  37. (概念が明白となれば)
  38. (成 程)
  39. (過程に興味が存するばかりです)
  40. (58號の電車で女郎買に行つた男が)
  41. (汽車が聞える)
  42. (不隨意筋のケンワク)
  43. 呪 咀
  44. 眞夏晝思索
  45. (人々は空を仰いだ)
  46. 冬と孤獨と
  47. 或る心の一季節
  48. 秋の愁嘆
  49. 無 題(緋の色に心はなごみ)
  50. 秋の日
  51. (かつては私も)
  52. (秋の日を歩み疲れて)
  53. 無 題(あゝ雲はさかしらに笑ひ)
  54. 涙 語
  55. 浮浪歌
  56. 春と戀人
  57. 夏の夜
  58. かの女
  59. 少年時
  60. 夜寒の都會
  61. 地極の天使
  62. 春の雨
  63. 屠殺所
  64. 無 題(疲れた魂と心の上に)
  65. 處女詩集序
  66. 詩人の嘆き
  67. 聖淨白眼
  68. 秋の夜
  69. 冬の日
  70. 幼なかりし日
  71. 間奏曲

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
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