亡き兒文也の靈に捧ぐ
中原中也
あんまり晴れてる 秋の空 / 赤い蜻蛉が 飛んでゐる / 淡(あは)い夕陽を 浴びながら / 僕は野原に 立つてゐる
遠くに工場の 煙突が / 夕陽にかすんで みえてゐる / 大きな溜息 一つついて / 僕は蹲んで 石を拾ふ
その石くれの 冷たさが / 漸く手中(しゆちう)で ぬくもると / 僕は放(ほか)して 今度は草を / 夕陽を浴びてる 草を拔く
拔かれた草は 土の上で / ほのかほのかに 萎えてゆく / 遠くに工場の 煙突は / 夕陽に霞んで みえてゐる
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