在りし日の歌

亡き兒文也の靈に捧ぐ

中原中也

在りし日の歌

春は土と草とに新しい汗をかゝせる。 / その汗を乾かさうと、雲雀は空に隲る。 / 瓦屋根今朝不平がない、 / 長い校舍から合唱は空にあがる。

あゝ、しづかだしづかだ。 / めぐり來た、これが今年の私の春だ。 / むかし私の胸搏つた希望は今日を、 / 嚴めしい紺靑こあをとなつて空から私に降りかゝる。

そして私は呆氣てしまふ、バカになつてしまふ / ――藪かげの、小川か銀か小波さざなみか? / 藪かげの小川か銀か小波か?

大きい猫が頸ふりむけてぶきつちよに / 一つの鈴をころばしてゐる、 / 一つの鈴を、ころばして見てゐる。

目次

在りし日の歌

  1. 在りし日の歌
  2. 永訣の秋

在りし日の歌

  1. 含 羞
  2. むなしさ
  3. 夜更の雨
  4. 早春の風
  5. 靑い瞳
    1. 夏の朝
    2. 冬の朝
  6. 三歳の記憶
  7. 六月の雨
  8. 雨の日
  9. 春の日の歌
  10. 夏の夜
  11. 幼獸の歌
  12. この小兒
  13. 冬の日の記憶
  14. 秋の日
  15. 冷たい夜
  16. 冬の明け方
  17. 老いたる者をして
  18. 湖 上
  19. 冬の夜
  20. 秋の消息
  21. 秋日狂亂
  22. 朝鮮女
  23. 夏の夜に覺めてみた夢
  24. 春と赤ン坊
  25. 雲 雀
  26. 初夏の夜
  27. 北の海
  28. 頑是ない歌
  29. 閑 寂
  30. お道化うた
  31. 思ひ出
  32. 殘 暑
  33. 除夜の鐘
  34. 雪の賦
  35. わが半生
  36. 獨身者
  37. 春宵感懷
  38. 曇 天
  39. 蜻蛉に寄す

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
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