在りし日の歌

亡き兒文也の靈に捧ぐ

中原中也

在りし日の歌

冬の夜

みなさん今夜は靜かです / 藥鑵の音がしてゐます / 僕は女を想つてる / 僕には女がないのです

それで苦勞もないのです / えもいはれない彈力の / 空氣のやうな空想に / 女を描いてみてゐるのです

えもいはれない彈力の / 澄み亙つたる沈默しじま / 藥鑵の音を聞きながら / 女を夢みてゐるのです

かくて夜は更け夜は深まつて / 犬のみ覺めたる冬の夜は / 影と煙草と僕と犬 / えもいはれないカクテールです

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空氣よりよいものはないのです / それも寒い夜の室内の空氣よりもよいものはないのです / 煙よりよいものはないのです / 煙より 愉快なものもないのです / やがてはそれがお分りなのです / 同感なさる時が 來るのです

空氣よりよいものはないのです / 寒い夜の瘦せた年增女としまの手のやうな / その手の彈力のやうな やはらかい またかたい / かたいやうな その手の彈力のやうな / 煙のやうな その女の情熱のやうな / 炎えるやうな 消えるやうな

冬の夜の室内の 空氣よりよいものはないのです

目次

在りし日の歌

  1. 在りし日の歌
  2. 永訣の秋

在りし日の歌

  1. 含 羞
  2. むなしさ
  3. 夜更の雨
  4. 早春の風
  5. 靑い瞳
    1. 夏の朝
    2. 冬の朝
  6. 三歳の記憶
  7. 六月の雨
  8. 雨の日
  9. 春の日の歌
  10. 夏の夜
  11. 幼獸の歌
  12. この小兒
  13. 冬の日の記憶
  14. 秋の日
  15. 冷たい夜
  16. 冬の明け方
  17. 老いたる者をして
  18. 湖 上
  19. 冬の夜
  20. 秋の消息
  21. 秋日狂亂
  22. 朝鮮女
  23. 夏の夜に覺めてみた夢
  24. 春と赤ン坊
  25. 雲 雀
  26. 初夏の夜
  27. 北の海
  28. 頑是ない歌
  29. 閑 寂
  30. お道化うた
  31. 思ひ出
  32. 殘 暑
  33. 除夜の鐘
  34. 雪の賦
  35. わが半生
  36. 獨身者
  37. 春宵感懷
  38. 曇 天
  39. 蜻蛉に寄す

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
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