在りし日の歌

亡き兒文也の靈に捧ぐ

中原中也

在りし日の歌

幼獸の歌

黑い夜草深い野にあつて、 / 一匹のけものが火消壺の中で / 燧石を打つて、星を作つた。 / 冬を混ぜる 風が鳴つて。

獸はもはや、なんにも見なかつた。 / カスタニェットと月光のほか / 目覺ますことなき星を抱いて、 / 壺の中には冒瀆を迎へて。

雨後らしく思ひ出は一塊いつくわいとなつて / 風と肩を組み、波を打つた。 / あゝ なまめかしい物語―― / 奴隷も王女と美しかれよ。

卵殻もどきの貴公子の微笑と / 遅鈍な子供の白血球とは、 / それな獸を怖がらす。

黑い夜草深い野の中で、 / 一匹の獸の心は燻る。 / 黑い夜草深い野の中で―― / 太古は、獨語も美しかつた!……

目次

在りし日の歌

  1. 在りし日の歌
  2. 永訣の秋

在りし日の歌

  1. 含 羞
  2. むなしさ
  3. 夜更の雨
  4. 早春の風
  5. 靑い瞳
    1. 夏の朝
    2. 冬の朝
  6. 三歳の記憶
  7. 六月の雨
  8. 雨の日
  9. 春の日の歌
  10. 夏の夜
  11. 幼獸の歌
  12. この小兒
  13. 冬の日の記憶
  14. 秋の日
  15. 冷たい夜
  16. 冬の明け方
  17. 老いたる者をして
  18. 湖 上
  19. 冬の夜
  20. 秋の消息
  21. 秋日狂亂
  22. 朝鮮女
  23. 夏の夜に覺めてみた夢
  24. 春と赤ン坊
  25. 雲 雀
  26. 初夏の夜
  27. 北の海
  28. 頑是ない歌
  29. 閑 寂
  30. お道化うた
  31. 思ひ出
  32. 殘 暑
  33. 除夜の鐘
  34. 雪の賦
  35. わが半生
  36. 獨身者
  37. 春宵感懷
  38. 曇 天
  39. 蜻蛉に寄す

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
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