在りし日の歌

亡き兒文也の靈に捧ぐ

中原中也

在りし日の歌

三歳の記憶

縁側に陽があたつてて、 / 樹脂きやにが五彩に眠る時、 / 柿の木いつぽんある中庭にはは、 / 土は枇杷いろ 蠅が唸く。

稚厠おかわの上に 抱へられてた、 / すると尻から 蛔虫むしが下がつた。 / その蛔虫むしが、稚厠の淺瀨で動くので / 動くので、私は吃驚しちまつた。

あゝあ、ほんとに怖かつた / なんだか不思議に怖かつた、 / それでわたしはひとしきり / ひと泣き泣いて やつたんだ。

あゝ、怖かつた怖かつた / ――部屋の中は ひつそりしてゐて、 / 隣家となりは空に 舞ひ去つてゐた! / 隣家となりは空に 舞ひ去つてゐた!

目次

在りし日の歌

  1. 在りし日の歌
  2. 永訣の秋

在りし日の歌

  1. 含 羞
  2. むなしさ
  3. 夜更の雨
  4. 早春の風
  5. 靑い瞳
    1. 夏の朝
    2. 冬の朝
  6. 三歳の記憶
  7. 六月の雨
  8. 雨の日
  9. 春の日の歌
  10. 夏の夜
  11. 幼獸の歌
  12. この小兒
  13. 冬の日の記憶
  14. 秋の日
  15. 冷たい夜
  16. 冬の明け方
  17. 老いたる者をして
  18. 湖 上
  19. 冬の夜
  20. 秋の消息
  21. 秋日狂亂
  22. 朝鮮女
  23. 夏の夜に覺めてみた夢
  24. 春と赤ン坊
  25. 雲 雀
  26. 初夏の夜
  27. 北の海
  28. 頑是ない歌
  29. 閑 寂
  30. お道化うた
  31. 思ひ出
  32. 殘 暑
  33. 除夜の鐘
  34. 雪の賦
  35. わが半生
  36. 獨身者
  37. 春宵感懷
  38. 曇 天
  39. 蜻蛉に寄す

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
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