亡き兒文也の靈に捧ぐ
中原中也
縁側に陽があたつてて、 / 樹脂(きやに)が五彩に眠る時、 / 柿の木いつぽんある中庭(には)は、 / 土は枇杷いろ 蠅が唸く。
稚厠(おかわ)の上に 抱へられてた、 / すると尻から 蛔虫(むし)が下がつた。 / その蛔虫(むし)が、稚厠の淺瀨で動くので / 動くので、私は吃驚しちまつた。
あゝあ、ほんとに怖かつた / なんだか不思議に怖かつた、 / それでわたしはひとしきり / ひと泣き泣いて やつたんだ。
あゝ、怖かつた怖かつた / ――部屋の中は ひつそりしてゐて、 / 隣家(となり)は空に 舞ひ去つてゐた! / 隣家(となり)は空に 舞ひ去つてゐた!
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