在りし日の歌

亡き兒文也の靈に捧ぐ

中原中也

在りし日の歌

老いたる者をして

――「空しき秋」第十二

老いたる者をして靜謐の裡にあらしめよ / そは彼等こころゆくまで悔いんためなり

吾は悔いんことを欲す / こころゆくまで悔ゆるは洵にたまを休むればなり

あゝ はてしもなく涕かんことこそ望ましけれ / 父も母も兄弟はらからも友も、はた見知らざる人々をも忘れて

東明しののめの空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く / はたなびく小旗の如く涕かんかな

或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき / 海のの風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……

反 歌

あゝ 吾等怯懦のために長き間、いとも長き間 / あだなることにかゝらひて、涕くことを忘れゐたりしよ、げに忘れゐたりしよ……

〔空しき秋二十數篇は散佚して今はなし。その第十二のみ、諸井 / 三郎の作曲によりて殘りしものなり。〕

目次

在りし日の歌

  1. 在りし日の歌
  2. 永訣の秋

在りし日の歌

  1. 含 羞
  2. むなしさ
  3. 夜更の雨
  4. 早春の風
  5. 靑い瞳
    1. 夏の朝
    2. 冬の朝
  6. 三歳の記憶
  7. 六月の雨
  8. 雨の日
  9. 春の日の歌
  10. 夏の夜
  11. 幼獸の歌
  12. この小兒
  13. 冬の日の記憶
  14. 秋の日
  15. 冷たい夜
  16. 冬の明け方
  17. 老いたる者をして
  18. 湖 上
  19. 冬の夜
  20. 秋の消息
  21. 秋日狂亂
  22. 朝鮮女
  23. 夏の夜に覺めてみた夢
  24. 春と赤ン坊
  25. 雲 雀
  26. 初夏の夜
  27. 北の海
  28. 頑是ない歌
  29. 閑 寂
  30. お道化うた
  31. 思ひ出
  32. 殘 暑
  33. 除夜の鐘
  34. 雪の賦
  35. わが半生
  36. 獨身者
  37. 春宵感懷
  38. 曇 天
  39. 蜻蛉に寄す

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
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