在りし日の歌

亡き兒文也の靈に捧ぐ

中原中也

在りし日の歌

ホラホラ、これが僕の骨だ、 / 生きてゐた時の苦勞にみちた / あのけがらはしい肉を破つて、 / しらじらと雨に洗はれ / ヌツクと出た、骨のさき

それは光澤もない、 / ただいたづらにしらじらと、 / 雨を吸收する、 / 風に吹かれる、 / 幾分空を反映する。

生きてゐた時に、 / これが食堂の雜踏の中に、 / 坐つてゐたこともある、 / みつばのおしたしを食つたこともある、 / と思へばなんとも可笑しい。

ホラホラ、これが僕の骨―― / 見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。 / 靈魂はあとに殘つて、 / また骨の處にやつて來て、 / 見てゐるのかしら?

故郷ふるさとの小川のへりに、 / 半ばは枯れた草に立つて / 見てゐるのは、――僕? / 恰度立札ほどの高さに、 / 骨はしらじらととんがつてゐる。

目次

在りし日の歌

  1. 在りし日の歌
  2. 永訣の秋

在りし日の歌

  1. 含 羞
  2. むなしさ
  3. 夜更の雨
  4. 早春の風
  5. 靑い瞳
    1. 夏の朝
    2. 冬の朝
  6. 三歳の記憶
  7. 六月の雨
  8. 雨の日
  9. 春の日の歌
  10. 夏の夜
  11. 幼獸の歌
  12. この小兒
  13. 冬の日の記憶
  14. 秋の日
  15. 冷たい夜
  16. 冬の明け方
  17. 老いたる者をして
  18. 湖 上
  19. 冬の夜
  20. 秋の消息
  21. 秋日狂亂
  22. 朝鮮女
  23. 夏の夜に覺めてみた夢
  24. 春と赤ン坊
  25. 雲 雀
  26. 初夏の夜
  27. 北の海
  28. 頑是ない歌
  29. 閑 寂
  30. お道化うた
  31. 思ひ出
  32. 殘 暑
  33. 除夜の鐘
  34. 雪の賦
  35. わが半生
  36. 獨身者
  37. 春宵感懷
  38. 曇 天
  39. 蜻蛉に寄す

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
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