亡き兒文也の靈に捧ぐ
中原中也
石鹼箱には秋風が吹き / 郊外と、市街を限る路の上には / 大原女が一人歩いてゐた
――彼は獨身者(どくしんもの)であつた / 彼は極度の近眼であつた / 彼はよそゆきを普段に着てゐた / 判屋奉公したこともあつた
今しも彼が湯屋から出て來る / 薄日の射してる午後の惨事 / 石鹼箱には風が吹き / 郊外と、市街を限る路の上には / 大原女が一人歩いてゐた
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