中原中也
あなたは私を愛し、 / 私はあなたを愛した。
あなたはしつかりしてをり、 / わたしは眞面目であつた。――
人にはそれが、嫉ましかつたのです、多分、 / そしてそれを、偸まうとかゝつたのだ。
嫉み羨みから出發したくどきに、あなたは乘つたのでした、 / ――何故でせう?――何かの拍子……
さうしてあなたは私を別れた、 / あの日に、おお、あの日に!
曇つて風ある日だつたその日は。その日以來、 / もはやあなたは私のものではないのでした。
私は此處にゐます、黄色い灯影に、 / あなたが今頃笑つてゐるかどうか、――いや、ともすればそんなこと、想つてゐたりするのです
(一九二九・七・一四)
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