亡き兒文也の靈に捧ぐ
中原中也
あれはとほいい處にあるのだけれど
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おれは此處で待つてゐなくてはならない
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此處は空氣もかすかで蒼く
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葱の根のやうに仄かに
決して急いではならない
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此處で十分待つてゐなければならない
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それにしてもあれはとほいい彼方で夕陽にけぶつてゐた
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さうすればそのうち喘ぎも平靜に復し / たしかにあすこまでゆけるに違ひない / しかしあれは煙突の煙のやうに / とほくとほく いつまでも茜の空にたなびいてゐた
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