在りし日の歌

亡き兒文也の靈に捧ぐ

中原中也

永訣の秋

幻 影

私の頭の中には、いつの頃からか、 / 薄命さうなピエロがひとり棲んでゐて、 / それは、紗の服かなんかを着込んで、 / そして、月光を浴びてゐるのでした。

ともすると、弱々しげな手付をして、 / しきりと 手眞似をするのでしたが、 / その意味が、つひぞ通じたためしはなく、 / あはれげな 思ひをさせるばつかりでした。

手眞似につれては、くちも動かしてゐるのでしたが、 / 古い影繪でも見てゐるやう―― / 音はちつともしないのですし、 / 何を云つてるのかは、分りませんでした。

しろじろと身に月光を浴び、 / あやしくもあかるい霧の中で、 / かすかな姿態をゆるやかに動かしながら、 / 眼付ばかりはどこまでも、やさしさうなのでした。

目次

在りし日の歌

  1. 在りし日の歌
  2. 永訣の秋

永訣の秋

  1. ゆきてかへらぬ
  2. 一つのメルヘン
  3. 幻 影
  4. あばずれ女の亭主が歌つた
  5. 言葉なき歌
  6. 月夜の濱邊
  7. また來ん春……
  8. 月の光 その一
  9. 月の光 その二
  10. 村の時計
  11. 或る男の肖像
  12. 冬の長門峽
  13. 米 子
  14. 正 午
  15. 春日狂想
  16. 蛙 聲
  17. 後 記

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
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