山羊の歌

中原中也

少年時

心 象

I

松の木に風が吹き、 / 踏む砂利の音は寂しかつた。 / 暖い風が私の額を洗ひ / 思ひははるかに、なつかしかつた。

腰をおろすと、 / 浪の音がひときは聞えた。 / 星はなく / 空は暗い綿だつた。

とほりかかつた小舟の中で / 船頭がその女房に向つて何かを云つた。 / ――その言葉は、聞きとれなかつた。

浪の音がひときはきこえた。

II

亡びたる過去のすべてに / 涙湧く。 / 城の塀乾きたり / 風の吹く

草靡く / 丘を越え、野を渉り / 憩ひなき / 白き天使のみえ來ずや

あはれわれ死なんと欲す、 / あはれわれ生きむと欲す / あはれわれ、亡びたる過去のすべてに

涙湧く。 / み空の方より、 / 風の吹く

目次

山羊の歌

  1. 初期詩篇
  2. 少年時
  3. みちこ
  4. 羊の歌

少年時

  1. 少年時
  2. 盲目の秋
  3. わが喫煙
  4. 妹 よ
  5. 寒い夜の自画像
  6. 木 蔭
  7. 失せし希望
  8. 心 象

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
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