中原中也
風が立ち、浪が騷ぎ、 / 無限の前に腕を振る。
その
風が立ち、浪が騷ぎ、 / 無限のまへに腕を振る。
もう永遠に歸らないことを思つて / 酷白な嘆息するのも幾たびであらう……
私の靑春はもはや堅い血管となり、
/
その中を
それはしづかで、きらびやかで、なみなみと湛へ、
/
去りゆく女が最後にくれる
あゝ、胸に殘る……
風が立ち、浪が騷ぎ、 / 無限のまへに腕を振る。
これがどうならうと、あれがどうならうと、 / そんなことはどうでもいいのだ。
これがどういふことであらうと、それがどういふことであらうと、 / そんなことはなほさらどうだつていいのだ。
人には自恃があればよい! / その餘はすべてなるまゝだ……
自恃だ、自恃だ、自恃だ、自恃だ、 / ただそれだけが人の行ひを罪としない。
平氣で、陽氣で、藁束のやうにしむみりと、 / 朝霧を煮釜に塡めて、跳起きられればよい!
私の
それといふのも私が素直でなかつたからでもあるが、 / それといふのも私に意氣地がなかつたからでもあるが、 / 私がおまへを愛することがごく自然だつたので、 / おまへもわたしを愛してゐたのだが……
おゝ! 私の
ごく自然に、だが自然に愛せるといふことは、 / そんなにたびたびあることでなく、 / そしてこのことを知ることが、さう誰にでも許されてはゐないのだ。
せめて死の時には、 / あの女が私の上に胸を披いてくれるでせうか。 / その時は白粧をつけてゐてはいや、 / その時は白粧をつけてゐてはいや。
ただ靜かにその胸を披いて、 / 私の眼に輻射してゐて下さい。 / 何にも考へてくれてはいや、 / たとへ私のために考へてくれるのでもいや。
ただはららかにはららかに涙を含み、 / あたたかく息づいてゐて下さい。 / ――もしも涙がながれてきたら、
いきなり私の上にうつ俯して、
/
それで私を殺してしまつてもいい。
/
すれば私は心地よく、うねうねの
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