山羊の歌

中原中也

初期詩篇

ためいき

河上徹太郎に

ためいきは夜の沼にゆき、 / 瘴氣の中で瞬きをするであらう。 / その瞬きは怨めしさうにながれながら、パチンと音を立てるだらう。 / 木々が若い學者仲間の、頸すぢのやうであるだらう。

世が明けたら地平線に、窓がくだらう。 / 荷車を挽いた百姓が、町の方へ行くだらう。 / ためいきはなほ深くして、 / 丘に響きあたる荷車の音のやうであるだらう。

野原に突出た山ノ端の松が、私を看守つてゐるだらう。 / それはあつさりしてても笑はない、叔父さんのやうであるだらう。 / 神様が氣層の底の、さかなを捕つてゐるやうだ。

空が曇つたら、蝗螽の瞳が、砂土の中に覗くだらう。 / 遠くに町が、石灰みたいだ。 / ピョートル大帝の目玉が、雲の中で光つてゐる。

目次

山羊の歌

  1. 初期詩篇
  2. 少年時
  3. みちこ
  4. 羊の歌

初期詩篇

  1. 春の日の夕暮
  2. サーカス
  3. 春の夜
  4. 朝の歌
  5. 臨 終
  6. 都會の夏の夜
  7. 秋の一日
  8. 黄 昏
  9. 深夜の思ひ
  10. 冬の雨の夜
  11. 歸 郷
  12. 凄じき黄昏
  13. 逝く夏の歌
  14. 悲しき朝
  15. 夏の日の歌
  16. 夕 照
  17. 港市の秋
  18. ためいき
  19. 春の思ひ出
  20. 秋の夜空
  21. 宿 醉

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
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