山羊の歌

中原中也

初期詩篇

春の夜

燻銀なる窓枠の中になごやかに / 一枝の花、桃色の花。

月光うけて失神し / には土面つちも附黑子つけぼくろ

あゝこともなしこともなし / 樹々よはにかみ立ちまはれ。

このすゞろなる物の / 希望はあらず、さてはまた、懺悔もあらず。

山虔しき木工のみ、 / 夢のうちなる隊商のその足竝もほのみゆれ。

窓のうちにはさはやかの、おぼろかの / 砂の色せる絹ごろも

かびろき胸のピアノ鳴り / 祖先はあらず、親も消ぬ。

埋みし犬の何處いづくにか、 / 蕃紅花色さふらんいろに湧きいづる / 春の夜や。

目次

山羊の歌

  1. 初期詩篇
  2. 少年時
  3. みちこ
  4. 羊の歌

初期詩篇

  1. 春の日の夕暮
  2. サーカス
  3. 春の夜
  4. 朝の歌
  5. 臨 終
  6. 都會の夏の夜
  7. 秋の一日
  8. 黄 昏
  9. 深夜の思ひ
  10. 冬の雨の夜
  11. 歸 郷
  12. 凄じき黄昏
  13. 逝く夏の歌
  14. 悲しき朝
  15. 夏の日の歌
  16. 夕 照
  17. 港市の秋
  18. ためいき
  19. 春の思ひ出
  20. 秋の夜空
  21. 宿 醉

このファイルについて

底本
中原中也「中原中也全集 第 1 巻」角川書店
1967 年 10 月 20 日 初版發行
1967 年 11 月 30 日 三版發行
中原中也「中原中也全集 第 2 巻」角川書店
1967 年 11 月 20 日 印刷發行
入力
イソムラ
2004-03-31T16:50:45+09:00 公開
2010-02-19T12:05:00+09:00 追加・修正
概要
底本を元に HTML 形式への変換を行っています。XHTML 1.1 と CSS 2 を使用しています。
ひらがな・カタカナなど基本的に底本のまま入力していますが(末黑野、未刊詩篇のカタカナ繰り返し記号 (*) を除く)、漢字はMS Pゴシック(MS PGothic)及びMS P明朝(MS PMincho)に含まれていないものはいわゆる新字に変換しています。

http://www.junkwork.net/txt