1. monologue
  2. Other Stories
  3. 長い長い手紙
  4. 再会

長い長い手紙

  1. 休暇
  2. 名前のない手紙
  3. 覚えのない旧友
  4. どこかへ
  5. 恩師
  6. 休息
  7. 長い入院
  8. 緊急手術
  9. 祈り
  10. 集中治療室の彼女
  11. 再会
  12. 電話にて

再会

その後三日間、僕は毎日病院に通い ICU を外から眺めた。僕が見ている間の彼女は眠っていたが、顔色は見違えるようによくなってきていた。僕はそれが嬉しくて仕方がなかった。まるで身内の快復を眺めているように。

四日目から、僕は仕事に復帰しなくちゃならなかった。盆を取り戻すように会社から仕事が与えられ、彼女のもとに行くことはできなかった。そして次の休日まで、間に四日間おくことになった。

「もうそろそろ話ができるって、確かあの医師は」

事務室の看護婦が僕を見つける。

「あ、お久しぶりです。本間さん、もうお話できますよ」
「本当ですか! 今、彼女はどこに?」
「202 号室です……あ、お話できると言ってもあまり長時間は」

看護婦の言葉を最後まで聞かず、僕は 202 号室へ向かった。

その病室は個室のようで、彼女以外の名札はなかった。もっとも、名札をかけるスペースすらなかったのだが。僕は妙にかしこまって、背筋を伸ばして扉をノックした。

「どうぞ」

中から少し弱々しい声が聞こえる。僕は小さく深呼吸をして扉を開けた。

「……こんにちは」

緊張した僕に、彼女は笑顔で答えた。

「いらっしゃい、佐伯くん」

やはり彼女は僕を覚えていた。僕は彼女を探すことになったきっかけと、これまでのいきさつを手短に話した。すると、彼女はまた笑顔で答えた。

「私のところにも手紙が届いたの」

そう言って彼女は白い小さな封書を僕の目の前に差し出した。差出人の名前はなかったが、誰が書いたものかはすぐにわかった。

「……僕の筆跡だ」

そのとき、頭に電流が走るような感覚を覚えた。そして僕は、高校生の頃のことを何もかも思い出した。

「文面……読まなくてもわかるよ」

彼女は静かに微笑んでいた。

ずっと君のことが好きでした
同じクラスなのに一度も話せなくて
僕のことなんか覚えていないかも知れないけれど
どこかで見かけることがあったら
声をかけてくれると嬉しいです

佐伯 浩二

「……君のこと、忘れてたわけじゃなくて」

少し恥ずかしくなってうつむく。

「一緒にいることができなかったから、その……」

照れ笑いをする僕を、彼女は優しく見守ってくれていた。

日差しも弱まり、季節は秋へと傾いていくようだった。僕は数日間の休みと引き換えに、高校生活の化石のような思い出を清算した。きっかけは、そう、彼女からのあの手紙だ。十二年間の想いが詰まった、とてもシンプルで長い手紙。僕の一夏を食いつぶした、長い長い手紙だ。

To Be Continued