1. monologue
  2. Other Stories
  3. 長い長い手紙
  4. 覚えのない旧友

長い長い手紙

  1. 休暇
  2. 名前のない手紙
  3. 覚えのない旧友
  4. どこかへ
  5. 恩師
  6. 休息
  7. 長い入院
  8. 緊急手術
  9. 祈り
  10. 集中治療室の彼女
  11. 再会
  12. 電話にて

覚えのない旧友

新幹線をキャンセルする電話を入れてから、僕はとりあえずベッドに腰かけた。そして手にした便箋を見つめて小さくうなった。

「何なんだろう? いや、誰なんだろう?」

愛の告白、の文面だろうこれは。そのくせ差出人の名前がないのは、気持ちが伝わればそれでいいってことだろうか。伝える側の正体がはっきりしないのに、伝わったと言えるのかどうかは知らないが。

「まるで高校生か中学生だな」

宛先を何度も何度も確認する。三十年慣れ親しんだ、間違いなく僕の名前。

「さてどうしたものか……何か手がかりは、っと」

便箋をひっくり返したり軽く折り曲げたりして見つめる。そこに手がかりがないと気づき、今度は封筒をじろじろと眺める。そして僕は、封筒の中に何か書いてあるのに気がついた。

「……? 何か文章が書いてある……?」

今度はペーパーナイフを持ち出して、封筒のつなぎ目にそって滑らせる。きれいに開けた封筒は一枚の手紙になっていた。

ごめんね、びっくりした? 他にいい方法が思いつかなくて。
この封筒に気づかなければ、それはそれでいいんだけど。

池脇 千佳子

「池脇……?」

聞いたことのあるような、ないような。毎日何十人もの名前を叫んでいる仕事柄、一度覚えた名前はそうそう忘れないのだが。ポケットの携帯電話を取り出して、メモリーから検索してみる。

「……ないな。ってことは……高校生か、中学生」

自分でつぶやいたセリフを思い出して納得する。そしてもう一度携帯電話を手にする。自宅へ電話して、謝りついでに頼みごとをするつもりで。

「……ああ、もしもし? ちょっと帰るのが遅れそうだよ」
「あら、お見合相手も見つかったっていうのにおじけづいたの?」
「いやそうじゃなくて、後で説明するから。それと頼みがあるんだけど」

小言を聞かされないうちに用件を伝え、今度は電話の前で待機することになった。しばらくすると、今度は母の方から電話があった。

「あったわよ、池脇さん。高校の頃の同級生」
「ああ、やっぱりか。住所と電話番号教えてよ」
「やっぱり? 確認か何かのために調べさせたの?」
「だから、後でまとめて説明するから」

納得のいかなさそうな母をなだめて、住所と電話番号をメモする。どうしようという考えがあったわけではなかったが、会ってみるのも悪くなさそうだ。

僕は帰省用の荷物を部屋に置き、鍵をかけるとアパートを後にした。久しぶりに悪巧みを思いついた少年のような顔で。

To Be Continued