1. monologue
  2. Other Stories
  3. 長い長い手紙
  4. 休息

長い長い手紙

  1. 休暇
  2. 名前のない手紙
  3. 覚えのない旧友
  4. どこかへ
  5. 恩師
  6. 休息
  7. 長い入院
  8. 緊急手術
  9. 祈り
  10. 集中治療室の彼女
  11. 再会
  12. 電話にて

休息

「なんだもう帰るのか? 用件がすんだらさっさと帰るなんて、お前も薄情だな」
「またゆっくり挨拶に来ますから。受験生の相手で大変でしょう?」

僕は多少形式ばった挨拶で職員室を後にした。渡辺先生は不満があるようだったが、連絡先を告げると少しだけ嬉しそうに笑った。いつでも呼んでくれ、というセリフが効いたのかも知れない。

「本間、千佳子」

彼女の名前をつぶやいてみた。池脇千佳子……現在の名前は本間千佳子。確かに両親は離婚して、母方に引き取られて引っ越していった。

「成績の優秀な賢い子だったが、体が弱かったからな。だから印象も薄いんじゃないか?」

渡辺先生はそう言っていた。いまだに僕の記憶に彼女との接点は浮かばない。

「あぁ、今日はもうここまでだな」

校門をくぐる頃にはすっかり陽は落ちていた。彼女の現在の住所もわかったことだし、もう明日にしよう。

家に着いた頃に、携帯電話が鳴った。実家の母からだった。

「ちょっと、今日はどうしたの?」
「あー……説明すると面倒そうだから」
「それってどういうことかしら? 何か帰りたくないわけでも?」
「また後でまとめて話すよ。とりあえず明日も帰れそうにない」
「ちょっと、それって……」

話半分に電話を切ってしまった。知らない土地をうろうろ歩き回るのは思ったより疲れる。とりあえず今日はもう寝てしまおう。

「池脇……ああ、あの池脇か。池脇がどこにいるか、ってそりゃ……」
「? 彼女の居場所、簡単に言えないような場所なんですか? 場所が入り組んでるとか、あ、海外?」
「今も国内に住んでるよ。割と近所の方だったように思う」
「じゃ、あまり世間的に良くないようなところに?」
「いや、まあその、そういうわけじゃないんだが」

そういえば、先生のあの渋り様は何だったのだろう。彼女の住所を僕に教えることが、何か良くないことにつながるのだろうか?

「今はいい、会えばきっとわかるから」

荷物を詰めたスーツケースを蹴り倒して、僕はベッドに倒れこんだ。

To Be Continued