1. monologue
  2. Other Stories
  3. 長い長い手紙
  4. 祈り

長い長い手紙

  1. 休暇
  2. 名前のない手紙
  3. 覚えのない旧友
  4. どこかへ
  5. 恩師
  6. 休息
  7. 長い入院
  8. 緊急手術
  9. 祈り
  10. 集中治療室の彼女
  11. 再会
  12. 電話にて

祈り

「彼女、一体なんの病気なんだい?」
「あら、ご存知ないんですか?」
「彼女教えてくれなかったから……それとも君に聞いたらまずいかな?」
「あまり喜んでお教えできるものじゃありませんが」
「そうか、ならいいよ。病名だけ聞いても理解できそうにないし」

僕が大人しく引き下がったので、事務の看護婦は安心したようだった。振り返ってエレベーターに向かう途中で気づいた。

「……そうか、車椅子じゃなくて担架用のエレベーターなのか」

だからこんなに大きいのか、と今さら情けない発見をする。とりあえず、これからどこへ向かおう。

「あのさ、手術ってどれくらい時間がかかるもの?」
「一時間ですむこともありますし、二時間三時間の場合もありますが」
「彼女……本間さんの場合は長引きそう?」
「さあ、緊急に、っていう場合は予定と狂いますので……」
「そうか……病院の中で時間つぶせそうなところは?」
「一階ロビーにカフェテリアがありますよ」

事務の看護婦に軽く礼を言って、今度は階段の方に向かった。次に担架を使わなきゃいけないときに、僕が乗ってたら何かと迷惑だろう。病院内で迷子になりそうになって少し後悔したが。

カフェテリアは思ったよりも空いていて、経営難にならないかと思うほどだった。時間帯によって混み具合も変わるだろうし、経営難なんてあり得ないのだろうけども。とにかく、静かに時間をつぶせそうだった。

僕は、テーブルの上に彼女からの手紙を置いた。

ずっとずっと好きでした

これ以上ないくらいにシンプルな手紙。透けてしまいそうな便箋にえがかれた、折れてしまいそうな彼女の字。

ごめんね、びっくりした? 他にいい方法が思いつかなくて。
この封筒に気づかなければ、それはそれでいいんだけど。

池脇 千佳子

封筒の中に隠された、おそらく彼女の本音。十何年もどこか奥底にしまいこまれて、ようやく陽の目を見た封筒。

彼女は、僕を覚えていた。確かに、僕の名前をなぞった。

「 サ エ キ ク ン 」

確かにそう言った。……僕は、記憶の断片を集めてる最中だというのに。

机に突っ伏して、目を閉じて祈った。手術が無事成功しますように。彼女が無事に退院して、思い出話でも何でもできますように。

カフェテリアでのゆるやかな時間の流れの中、僕はひたすら祈り続けた。外から射し込む光は、やがて夕方のそれへと移り変わっていった。

To Be Continued