中原中也
忌はしい憶ひ出よ、 / 去れ! そしてむかしの / 憐みの感情と / ゆたかな心よ、 / 返つて來い!
今日は日曜日 / 縁側には陽が當る。 / ――もういつぺん母親に連れられて / 祭の日には風船玉が買つてもらひたい、 / 空は靑く、すべてのものはまぶしくかゞやかしかつた……
忌はしい憶ひ出よ、 / 去れ! / 去れ去れ!
私の靑春も過ぎた、 / ――この寒い明け方の鷄鳴よ! / 私の靑春も過ぎた。
ほんに前後もみないで生きて來た…… / 私はあむまり陽氣にすぎた? / ――無邪氣な戰士、私の心よ!
それにしても私は憎む、 / 對外意識にだけ生きる人々を。 / ――パラドクサルな人生よ。
いま玆に傷つきはてて、 / ――この寒い明け方の鷄鳴よ! / おゝ、霜にしみらの鷄鳴よ……
器の中の水が搖れないやうに、 / 器を持ち運ぶことは大切なのだ。 / さうでさへあるならば / モーションは大きい程いい。
しかしさうするために、
/
もはや
いといと淡き今日の日は
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雨蕭々と降り酒ぎ
/
水より
げに秋深き今日の日は / 石の響きの如くなり。 / 思ひ出だにもあらぬがに / まして夢などあるべきか。
まことや我は石のごと / 影の如くは生きてきぬ…… / 呼ばんとするに言葉なく / 空の如くははてもなし。
それよかなしきわが心
/
いはれもなくて
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