monologue : Other Stories.

Other Stories

目には目を : 4/5

4 / 3 PM 11:20

玄関からドアを叩く音が聞こえる。訪問者は何度も何度もドアを叩いたが、しばらくすると静寂が訪れた。シンヤは、頭から布団をかぶったままうずくまっていた。

(警察が事情聴取にでも来たか……?)

確認する気が起きなくても、推察する気は自然と起きる。ヨウイチのことか、カズマのことか……それともミホのことか。カズマにもミホにも連絡はつかないままだった。

(誰なんだ?)

状況を整理すればするほど、事態がつかめなくなっていった。

ヨウイチが殺された。カズマとも連絡がつかない。

(……報復?)

それならわからなくもない。あの女が自殺した原因は、間違いなく自分たち三人にある。しかし後悔してはいるが、今は罪悪感とは別の感情で頭がいっぱいだった。

(じゃあミホはどこに行った?)

あの女が死んで、気を紛らわすために街でひっかけただけの女だ。ここ数日一緒にはいたが、知り合ってまだ二週間も経たない。もっとも、周囲にはそんなことわかるはずもないのだろうが。

(今回のこととは関係ないのか? それとも)

順番のつもりか? 一番嫌な考えが頭の中をよぎった。

そのとき、また玄関でドアを叩く音がした。シンヤはとっさに身構えた……が、その音はすぐに止まった。

(……何だ?)

さっきからの客人と同じにしては諦めが早い。全く別の人間がこんな時間に訪ねてきたというのなら、日本の礼儀作法は死んだということか。

シンヤがくだらないことを考えている間に、客人は思わぬ行動に出たようだった。

(何かをひっかくような音?)

同じく玄関から、カチャカチャと音がする。何か機械の中をひっかくような、少しこもった金属音。やがて何かを探り当てたように、それは別の音を導き出した。

カチリ。

(……カギか!)

自分の家のカギがどんな音をたてるか、内側から聞いたことなどなかった。そうか、こんな音がしてカギが開くのか。妙に冷静な納得と同時に、腹の奥から何かこみあげ、そしてにじむように汗が吹き出した。

(誰が、どうして俺の部屋のカギを持ってやがる)

じっとうずくまったまま、聞き耳をたてて頭をフル回転させる。

こんな時間に、誰だ? どうしてカギを持ってる? 何しに来た?

(……ミホに渡したカギ!)

自分の心臓が強く脈打つ音が聞こえる。

彼女に持たせたまま、彼女はいなくなった。彼女をさらった人物なら容易に手に入れられるわけだ。

(チクショウ、俺の番だってのか!?)

布団をはねのけ、玄関に向けて駆け出した。何にしても俺を狙ってるなら、先手が大事だ。相手の裏をかいて、こっちから攻勢に出てやる。

勢いよく玄関先に踊り出たシンヤの耳に、聞きなれた声が入ってきた。

「ああ刑事さん、開きましたよ」
「申し訳ないね、マスターキーまで持ち出してもらって……ん?」

開いたドアの向こうにいたのは、アパートの管理人と初老の男だった。

「君がシンヤくんだね? 私は向山署の刑事で樋山と言うんだが」

それ以上の言葉は耳の奥には入ってこなかった。向山署の樋山と名乗った警察官は、ヨウイチのことでシンヤに事情を聞きに来たようだった。拍子抜けしたのか、シンヤは二人の目の前で崩れ落ちた。そして、思いもかけない言葉をつぶやいた。

「警察かよ、ちょうどいい……俺を逮捕してくれ」
「なんだって?」
「人が来るたびに、こんな……神経すり減らすような……」

そうつぶやくと、彼はそのまま気を失った。

To be continued

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