monologue : Other Stories.

Other Stories

目には目を : 3/5

4 / 3 AM 10:05

「……クソ! 通じねぇ!」

シンヤは携帯を叩きつけようとして、すんでのところで思いとどまった。いつ向こうから連絡がくるかわからない以上、壊すわけにはいかない。

「……クソ!」

誰にともなくもう一度つぶやく。ヨウイチのことが新聞記事になってから、カズマと接触を試みるのは八回目だった。今朝の新聞の記事を見てから、ずっと嫌な予感がしている。

「警察で事情聴取ってんなら全然いいんだけどよ」

二日前、カズマから電話があったときのことを思い出した。三分二十四秒。三月二十四日。

" ちょっとしたミラクルだ "

大バカヤロウか、俺は。心の中で何度も何度もつぶやく。そしてもう一度、カズマに電話をかけてみた。

「……つながらねぇか」

大きく息を吸い込んで、今度はそれを吐き出す。

「もし本当なら、警察に自首して……」

そこまで言って頭を振る。両頬を二回叩いて、自分に喝を入れた。

「関係ない、何考えてやがんだ俺は」

三月二十四日、確かにシンヤたちはある女をレイプした。そして、その日のうちにその女は自ら死を選んだ。

「死なせたのは……死んだのは……」

うつむいて両目を覆うように押さえると、今度は大きなため息をついた。

「……死ぬだなんて思わなかったんだ」

言いわけを独り言のようにつぶやく。あの事件のあと五日間に渡って、おそらく、ヨウイチが音信不通になるまで。シンヤは無記名の人物からの脅迫状を受け取っていた。

彼女の死を / 君の命で償いなさい

ずっと冗談だと思っていた。自分たちがレイプしたことなんて誰も知らないはずだ。警察だって彼女の自殺の動機は知らないだろう。

じゃあ誰が自分を断罪しようとしてる?

ヨウイチが死……おそらく殺されて、カズマは音信不通。とにかく何かが普通じゃない。こんなことになるなら、こんなことになるなら。

「シンヤ、いないのぉ?」

玄関から間の抜けた声が聞こえる。ミホが遊びに来たのか……俺は、カギを開けっ放しで寝たのか? 自分があまりに無用心なことに今さら気付く。

「……おい、どうやって入ってきたんだよ」
「だって、シンヤがこれ忘れてったんじゃない」

彼女は右手を差し出すと、いたずらっ子のような表情をしてみせた。彼女の細い指の上には、見慣れたカギが乗せてあった。

「昨日、アタシに預からせたまま帰っちゃうんだもん」
「……ああ、そうだったっけか」

昨日のことなんてほとんど覚えていないし、どうでも良かった。生返事にミホは不思議そうな顔をしたが、それすらもどうでも良かった。

「あー……お前にやるよ、それ。スペアなんていくらでもあるしな」
「本当!? いつでもここに来ていいの!?」
「ああ、好きにしろよ。いつでもいるワケじゃねぇけどな」

彼女は言葉にできないまま笑顔をつくり、シンヤに飛びついた。

「わかったわかった、だからもう今日は帰れ、な? 忙しいんだ」

文句を言う彼女をなだめて、何とか帰らせることにした。彼女は玄関先までずっと笑顔で、不必要なほどに腕を振りながら帰った。

(やれやれ、気楽でカワイイもんだ)

彼女を見送って部屋に戻ったシンヤの目に、何か光るものが映った。床にミホのピアスが片方落ちている。

(俺に抱きついたときに落ちたか……ったく、世話のかかる)

ベランダから身を乗り出し、彼女に声をかけることにした。まだ今なら間に合うだろう。

「おい、ピアス片方……」

しかし、シンヤの視界に動くものは何もなかった。主婦や烏も例外なく静まり返り、通りにあるはずの彼女の姿もなかった。

To be continued

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