monologue : Same Old Story.

Same Old Story

泣かないから

「ごめんね、ごめん、私、努力するから」

泣きながら僕の後をついて歩く彼女に、周囲の歩行者の視線が集まるのを感じる。

最悪だ、この女。僕の言ったことを何ひとつ理解してない。

「ごめんね、本当に」
「あのな」

相変わらず泣きながら謝る彼女に向き合い、もう一度さっきと同じことを口にする。

「もっとさっぱりとした大人の女性が好きなんだ、僕は」

また、彼女の目が潤み始める。

「だから、私、がんばるから、だから」
「わからないかなあ」

本当に呆れた女だ。

「もう既に、君は問題外の場所にいるわけ。わかる? 本当に僕の言うことがわかったんなら、泣きながら後ついてくるなんて」

彼女の頬を涙が伝うのを見て、さすがに少し言い過ぎたことに気が付く。

「ああ、悪かった、僕が悪かった。もう泣くなよ、子供じゃないんだから」
「……じゃ、どんな女の人がいいの?」
「どんなって、それは……物事に動じないっていうか、クールでドライな感じの」

彼女が僕に真剣な眼差しを向ける。その視線に耐え切れず、僕はまた悪態をつく。

「少なくとも、人前で泣いたりはしないね」

一瞬彼女が唇を噛み、何か言おうとしたそのとき、僕の背後でものすごい轟音が響いた。振り返ったその瞬間、視界の全てが真っ白になって消えた。

「救急車だ! 早く!」
「痛いよ、痛いよ、お母さん」
「こっちよ!」
「動かすな! ゆっくり、ゆっくりだ!」

目が覚めると、風景は横倒しになっていた。

いや、僕が地面に突っ伏しているのか。そう気付いて起き上がろうとしても、体は動かなかった。

(……一体、何が?)

あちこちから悲鳴や叫び声が響く。大きな事故でも起こったのだろうか。

(痛っ……!)

体に激痛が走る。一体、どうなってしまったのだろう?

「……あ……」

そのとき、目の前に彼女が立っていることに気が付いた。無傷で、仁王立ちのような格好だった。

「良かっ……た……」

自分の声が途切れ途切れなのに気が付く。

「僕……は……どう、なっ……てる……?」

問いかけると彼女は、しゃがんで僕に顔を寄せて言った。

「大丈夫よ。私はもう泣かないから」

そして振り返って、彼女は歩き出した。引き止めようとしても声が出ない。

「早く、こっちだ!」
「子供が先だ! 動けるやつは手を貸せ!」

風景が、色をなくしていく。カーテンコールの後の暗転のように、ゆっくりと暗くなっていく。僕はただ、彼女の乾いた足音だけを聞きながら、眠るように意識をなくした。乾いた、冷たい足音を。

Fin.

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