monologue : Same Old Story.

Same Old Story

観光名所

「雨、思ったより強いな。引き返すか?」
「いや、いいよ。これくらいの方が雰囲気は出てるだろ」

助手席の友人は、意外に強気のままだった。後部座席から女の子たちが冷やかす。

「本当はすぐにでも帰りたいんでしょ」
「無理しなくていいよ、怖がりなのは知ってるんだから」

時計は午後十一時を示している。丑三つ時まではまだちょっと時間がある。

サークルの集会の後、人づてにある有名な場所の話を聞いた。いわゆる、心霊スポットというやつだ。肝試しにはもう遅い気もするが、ともかく一度見てみよう、ということになり、僕と助手席の彼と、後部座席の女の子二人で現地に向かうことにした。目的地は、県境の旧国道トンネル。

「そこの怪談聞いたことないんだけど、どんなのがあるの?」
「さあ、私も聞いたことないよ」
「トンネルがあることも知らなかったから……方角は合ってる?」
「ずっと真っ直ぐだよ、あと十五分もかからない」

だんだん雨が強くなってくる。視界はかなり悪くなっていた。

「参ったな、真っ直ぐ進めてるのかも怪しいもんだ」

僕のつぶやきに応えるように一段と雨は強くなり、車内から周囲はほとんど見えなくなった。かろうじてヘッドライトが目の前の道を照らしていて、僕らが道路の中央寄りを走っていることを示していた。

「ねえ、一度車停めた方が良くない?」
「どうして?」

後部座席から不安そうな声。

「こんなに視界が悪いんだもの、いつ事故を起こすか」
「ここで停車したら、前が見えてない後続車に追突されるよ」

雨はまだ強くなっていき、まるで何かが天井を叩いているような音を立てた。

「じゃ道路脇に停めればいいんじゃない?」
「こうも視界が悪くちゃ、どこが道路脇かわからないんだ。脇に寄せようとして何かにぶつけるかも」
「真っ直ぐ、しかないってことね」

溜め息をついて、背もたれにもたれかかる音が聞こえた。

「まあ、目的地には着くさ」

二度目の溜め息が聞こえたとき、雨が急に弱まったように感じた。視界もすぐに良くなり、雨は夕立のように突然止んでしまった。

「あれ、止んだな……ちょっと車停めて、現在地の確認でもするか」

三人がすぐに同意したので、僕は車を道の脇に寄せて停めた。全員が車から降り、伸びをしたりあくびをしたり。僕は、車の前方をじっと見据えてつぶやいた。

「だいぶ走ったのに、まだ見えないな」
「ねえ、ちょっと」

女の子の一人が、僕の肩を叩く。振り向くと、彼女は怪訝そうな表情で僕を見ていた。

「あれじゃない? 噂のトンネル」

確かにそれらしきトンネルがあった。車の、400m 程後方に。

「あら」
「いつの間に?」
「知らない間に通りすぎてたんだな。何か見たりした?」
「幽霊とか?」

僕と女の子たちがふざけて言い合いをしても、僕の友人は少しも笑わなかった。

「おい、変だよ」
「何が?」
「だってトンネル、あんなに長いんだぜ」

確かに、向こうの出口はかろうじて見える程度だった。

「それがどうかしたの?」
「絶対変だよ」
「ほらやっぱり、いつもの怖がり」

からかわれても、彼は笑わない。

「おかしいよ、こんな長いトンネルのはずがないんだ」
「……何言ってんだ?」
「だってそうだろ、あんな強い雨で」
「そりゃ視界は悪かったけど、道なりに進めば、トンネルくらい」
「じゃ、いったい」

彼が車を見る。

「さっきまで、天井に降ってきてたものは何だったんだ?」

僕は、自分の顔から血の気がひいていくのがわかった。トンネルで、雨なんて。

おそるおそる目をやると、車の天井には、何かの降った跡がはっきりと残っていた。

Fin.

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