monologue : Other Stories.

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カウントゲーム : 11/15

Day 3, PM 4:27 Chapter 3; 菱田 優子

「ダメだな、打つ手なしだ」

一通り何かの操作を終えたらしく、深田はぼそりとつぶやいた。ふう、と息をつき、キーボードに置いていた手で髪の毛をかきあげる。少しだけ涙目になっている優子を見て、深田はもう一度言った。

「ダメだった。消去できない、このメールは」
「どうしても?」
「どうしても。どういう仕組みかはわからないけど。一緒に届いたメール、これ」

問題のメッセージと一緒に届いた、"A. Hagiwara" という人物からの二通目のメッセージを指で差す。

「メールアドレス調べたら、派遣システムエンジニアのプライベートなアドレスらしい」
「派遣システム、エンジニア?」
「企業に要請されたら出向いて仕事こなして、それが終わったら次の仕事先の企業へ移るプログラマのこと。レンタルプログラマ、って言うとわかるかな」
「それが?」

今度はディスプレイでなく、優子の方に体を向けて言う。

「つまり、プログラムのプロフェッショナルが、プログラムの一種……だと思う、だけど。プログラムの一種、つまりこのメールに関してはお手上げ、ってこと」
「それって」

涙目に、新しい涙がじわりじわりとにじんでいく。

「どうしようもない、ってこと?」
「ん、まあそういうことだけど」

優子の目がどんどん潤んでいくのを見かねたように、深田はわざと明るい調子で言った。

「どうしようもないったってどうだってんだ、死ぬわけじゃないだろ? ウィルスだって最悪、HDD フォーマットされるくらいじゃんか」

自分の言葉がフォローになってないことに気付いて、また一段と明るい声を出す。

「いやだからさ、ゲームなんだろ? 転送しちゃえば消えるって書いてあるし」
「でも、送った相手が私に返信してきたら? 無駄にカウントが減っちゃう」
「いや、それは……」

大きなミスをやらかしたときのように否定的になっていく優子を見ながら、深田はゲームの行く末と結末を想像していた。優子から「ゲームのこと」と話を持ちかけられたとき、どこかで聞いたメール添付型のプログラムの噂を思い出していた。

ゲーム、敗者、罰ゲーム。敗者がいるなら、勝者は? ゲームに参加した、敗者以外の全員? 敗者に与えられるのが罰なら、勝者が得るものは?

「そうだよ、負けなきゃいいんだよ」
「えっ?」

つい口を滑らせ、優子が不思議そうに深田の顔を見つめる。何でもない、考え事してただけだから、と作り笑顔で言う。

(罰? 敗者? 負けがあるんなら、勝ちがあるはずだ)

罰ゲームは、内容はともかく、「勝って得られるもの」のためのリスクなのだろう。誰が勝者になる? それはゲームに参加しなければわからない。少なくとも、部外者が勝者になることはない。

「菱田」

うつむいて静かになっていた優子が、さっきよりも赤くなった涙目で深田を見る。その涙目に映ったのは、恐らくこのメッセージの中身に魅入られ、ディスプレイをじっと見つめる深田の横顔だった。

「いい考えが浮かんだ」

To be continued

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