monologue : Other Stories.

Other Stories

チャイルドメイカー : 11/13

約束のその日はよく晴れていて、浮かれ気味の僕の気分をさらに持ち上げた。朝起きて空を見上げて、それだけで軽く笑顔になってしまうくらいだった。

「久しぶりに亜理紗に会える……久しぶりに」

はやる気持ちを押さえつけて、新聞を読みながら朝食を食べる。目は記事を追ってはいるが、頭の中には一切入っていない。景気の指標がどうだとか、外交政策の意見がどうだとか、最大手の企業がどうだとか。今の僕にしてみればどれもこれも小さな問題だ。

「メールチェック、と」

パソコンを起動して、メールが来ていないかの確認。毎朝の僕の習慣だ。

「メールマガジン二件、メーリングリスト一件、ダイレクトメールに……誰だこれ?」

見慣れない送り主から、『緊急!』という件名でメールが来ていた。これもダイレクトメールの一種だろう、と踏んでささっと削除……しようとして気がつく。

「あれ、奈良崎じゃないか?」

アドレスの一部に「narasaki」と入っている。芸のないやつだ。フリーメールらしいから、一応ウィルスチェックはしておこう。

送信者

narasaki

宛先

murai

件名

緊急!

本文

奈良崎だ、今出張先だからフリーメールで送る。
あのソフト、やっぱり手をひいた方がいい。
最初のパッチ云々は登録作業らしい。
その後、ソフト起動時の登録情報なんかから、
プレイヤーの身元を割り出すんだとか……。
噂は噂に過ぎないかも知れないけれど、
火のないところには煙はたたないって言うからな。

そうか、そうだよな。普通、住所が割れて物を送ってきた時点で手を引くんだろうな。僕はどこかで感覚が麻痺していたんだろうか。今まであれだけ送られてきた小包を見ても、「これは以前のオーナーが払った金だろう」なんて平然としてる方がどうかしてるんだろう。どうも、何か熱中するとしっかり物事を考えられなくなるみたいだ。

「っと、まず最初にするべきことは」

とりあえず未開封の小包は全部返却しよう。郵便局に持って行けば、きっと何か対応策が……。

「ああ、もうこんな時間だ」

ふと時計を見て気がつく、もうすぐ亜理紗と妻に会う時間じゃないか。小包の件は後回しにして、約束の場所へ向かわなくちゃ。

「……ひとつくらい、構わないよな」

小包の中からひとつ取り出して、小脇に抱えて家を出る。ひとつくらい、亜理紗にプレゼントしてやってもいいよな。緩みきった危機感と責任感が僕を包み、一人娘のところへ向かうことを優先させた。

僕が家を出た直後、メールソフトが新着メールの存在を告げた。

To be continued

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