monologue : Other Stories.

Other Stories

チャイルドメイカー : 6/13

どうやら "アリス" は、ソフトが設定している時間おきに空腹を訴えるらしい。タイマーか何かを設定して、勝手にパソコンを起動しているのかも知れない。ここ最近のウィルスに比べれば、全くちゃちでかわいい、子供騙しな仕掛けだ。もっとも、タネが見えたからこそ、そうやって笑い飛ばすことができるのだが。

『アリス、何か欲しいものはあるかい?』
『ピアノが欲しいの、パパ』
「なんて高いおねだりをするんだか」

僕は意外にこのゲームに慣れて、いやむしろ楽しんですらいた。秘密に制作されたゲームだとか勝手に PC を起動するだとか、多少気味の悪いところは確かにあるけれど、当初の目的の暇つぶしには十分なっている。もう一ヶ月くらいになるだろうか。

「村井、あのゲームなあ、金持ちを対象に開発されたって言っただろ?」
「それがどうかしたのか?」

奈良崎は、僕が頼まずとも情報をかき集めてくる。

「ソフトの値段自体が法外なものらしくて、しかもそれは開発費としての値段じゃないらしいんだ」
「ってことは、一万円かそこらのゲームに膨大なオマケ付きってことか?」

ちゃかす僕に、彼はいつもより真剣な目をして言う。

「最初にあのソフトを買った人間は、何に金を払ってるんだと思う?」

彼の疑問はごく当たり前なものだとも思う。このゲームをプレイしていない彼には到底わからないことだろうから。

「こう物を送られてきちゃあな」

ゲームを始めて一ヶ月、僕のもとには大量の小包が送られてきていた。それは、僕がゲーム中で "アリス" に買い与えた物ばかりだった。

「つまり、これはシミュレーションなんだろうな」

育成シミュレーションの究極的な、というよりは極端な例だ。

ゲーム中で買った物は全部僕のもとに送られ、手触りでも使い心地でも何でもリアルに感じることができる。恐らく奈良崎の言う「法外な値段」というのは、ゲーム中に登場する品物の調達費にあてられているのだろう。実際、僕は届けられた品物に一円も払っていない。その金額が初期設定の三十万円以上であることも容易に想像がつく。

「金持ち対象の、金のかかるゲームってわけか」

気になる点がなくもない。どうしてこのソフトが、いち中古ゲーム店なんかに転がっていたんだ?

「……運命、なんてね」

くだらない。探りようのないことを考えても仕方がない。あるいはこのゲームをクリアすれば何かわかるかも知れない。

「もう少し頑張ってみるか」

そのとき、携帯電話が着信を告げた。

To be continued

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