monologue : Other Stories.

Other Stories

機械の命 : 4/7

僕が生まれた日から一ヶ月が過ぎた。生まれたというのは少し不適切な表現かも知れない。僕が整備カプセルから出た日から、だ。ハジメは毎日僕にいろんなことを教えてくれた。

日本語、英語、化学、生物、社会科……彼の持っている教科書は、ほとんど僕のメモリにコピーされてしまったんじゃないか、と思えるほどだった。それと彼は、僕にたくさんの小説を読ませてくれた。ヘミングウェイ、ロバート・ジェームズ、ダニエル・キイス。ハジメは、二十世紀の小説家が好きなようだった。

「だってさアールディ、今みたいに電子本でダウンロード配布してなかった時代なんだよ」
「二十一世紀前半まで、小説は紙媒体に印刷してた」
「そうそう、紙だよ。いろんな資源を費やしてまで皆が読みあさったんだよ!」

彼はそれを素敵なことだと言ったけれど、僕にはよくわからなかった。資源を浪費こそすれ、紙媒体は保存性の面で、小説など書籍として扱われた物に最適の媒体だとは言えない。デジタル媒体に比べて、劣化性が大きくてメリットが少ない。ハジメの祖父に言ったら、彼はこう言った。

「そういうことも人間らしさって言えるんじゃないかとワシは思うぞ」
「人間らしさ?」
「ハジメは今時めずらしく人間味のある子だからな」

僕は人間らしさという言葉がよくわからなかったので、辞書で調べた。

「人間らしさ……いかにも人間だということ」
「ああ、そうだが……その日本語は何か変だな」
「おじいちゃん、日本語の教科書はもう読み終えました」

そう言うと、彼は少しだけ笑って答えた。

「四角四面にとらえ過ぎない方がいい。これも人間らしさのひとつだ」

僕はよくその言葉の意味がわからなかった。そのことをもう一度尋ねてみようと思ったとき、ハジメが学校から帰ってきた。

「ただいま……アールディ、どうかしたの?」
「辞書を引いてもわからない言葉があるんだ」
「そっか、じゃあ今度別の辞書ソフト借りてくるよ」
「四角四面にとらえ過ぎない方がいいんだ」
「……? なんだいそれ? どういうこと?」

僕はなんだかよくわからないまま、頭の辺りが熱くなって、今日はもう整備して休むことにした。多少オーバーヒート気味だから少し休めばよくなると思う。ハジメには湿度のせいだと言ってごまかした。

自分からカプセルに入る僕を見て、なぜだかハジメの祖父は少し嬉しそうだった。

To be continued

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