monologue : Days.

Days - Log // 2007-06

2007-06-08 Fri.

雷雨。エム氏を迎えに、空港線沿いを歩いて陸橋を越える。上から見下ろしたときに、濡れた道路に反射する車のライトがぎらついていて、カメラを持っていないことを少し後悔した。間に合わせで買ったシャープな武器のようなシルエットのこうもり傘を見て、昔好きだった小説の挿絵に描かれたアルセーヌ・ルパンを思い出す。水色のシャツ、ジーンズ、赤いスニーカー、華奢な腕っぷしの怪盗紳士。

2007-06-11 Mon.

先日の雨で、近所の事務所玄関先に咲いていた、形のよい薔薇の花が飛ばされてしまっていた。花の命は短い。

気に入っていたカップを洗っている最中に割った。綺麗にしてから処分することになる、というのは、誰かの体を清めていたようであまり気持ちのいいものではなかった。出棺の代わりに、ボール紙にくるんでゴミの日に。

カップが割れなけりゃ、新しい別のカップに出会うこともないのかも知れない。僕は、この言葉遊びがただのポーズとパフォーマンスで、何の意味もないことを、もっと君に伝えられたらよかった。

やり場のない頭痛が続く。

2007-06-18 Mon.

負担にならないこと、は、常に気楽で爽快なものか。考え方が少しずつ変わっている。

靴がくたびれてきた。ここ半年、よく歩いている気がする。

2007-06-24 Sun.

首筋に負担が掛かっているような気がして、一度そんな気になってしまうとなかなかに逆らえず、枕を背の高いやつへと新調する。いざ寝ようというそのときに、普段と違う、馴染めない匂いに気が付く。新しい工業製品の匂いか、羽根の匂い、僕の部屋にはなかったもの。どうしても落ち着かず、一旦眠るのを諦める。

香に火を点ける。ぱし、という音が小さく確かに響き、何も音のない午前三時には新しい発見があるものだと思いながら、木枠の中にそれを立てる。もうすっかり慣れた何かの花を模したような匂いが、少しずつ部屋の空気に滲む。馴染めない何かを生活の中に引き入れ、そのうち慣れた何か、になる。それは出会いとか、人生に似ている。

2007-06-25 Mon.

半年前に比べて、自分に生命力が満ちてきたように感じる。実際のところ何かできているのかといえば、生産性についてはほとんど変わっていないのだけれど。少しだけ、真っ当になっている気がする。

ネット上で自殺志願者が集まってやり取りする、というコミュニティを、何の因果か覗き見してしまう。死ぬ自由を標榜する彼らは、生きる義務について考えが及ばないのか、敢えて目を逸らしているのか。生きたくても生きられない人、なんて引き合いに出すつもりはないけれど、今まで生かされてきたことへの恩返しの一つにも考えが及ばないことなんて、あまりに粗暴で乱雑過ぎる。「生きるには繊細な神経」なんて馬鹿馬鹿しい。何も憚らずそんなことを口にするなんて、どこでだってやっていける図太さだ。

読むことが常に何かプラスになるとは限らない。本当はそんなことなんてどうでもいい、こんなことだって書く必要はなかった。

2007-06-28 Thur.

定期的に君の様子を伺うことが、僕の責務の一つであるような気さえしている。

午前一時過ぎに、二駅分向こうの駐輪場へ停めた自転車を取りに歩く。大きめの買い物をしたときにはタクシーを使っていい、なんていう感覚はいつから身に付いたのか。湿度と温度が本格的な夏を知らせる。携帯電話に付けた鈴が、歩幅に合わせてちりちりと音を立てる。

向かいの部屋へ同年代の女性が入っていくところで、無意識に会釈を交わす。前に見たときは男性が住んでいた気がする。入れ替わったのか、一緒に住んでいるのか、今夜だけか。どうでもいいことだけれど。

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